母を“おかしい”と思うようになった出来事
母は若年性アルツハイマー。
母の言動に変化が現れたのは母が50代半ば頃だったようだ。
“ようだ”と言うのは、その頃わたしは母と一緒に暮らしておらず母は弟と関東のマンションに住んでいた。
後に母がアルツハイマーと診断されてから、弟と話しをした時に
「そう言えばあの時もおかしな感じだった」
と弟が思い出したからである。
それはわたし達家族4人と母、弟と海外旅行に行った時に飛行機内で記入する書類について何度も弟に
「なんて書くの?」
と訊ねたという。
当時から母はそそっかしく忘れやすいタイプだったし、弟も特段(おかしい)とは感じなかったようだ。でもそれが後にアルツハイマーの症状の始まりだったのかもしれないと言う。
そんな事があったのだけれど、母を本格的におかしいと思うようになったのはそれから数年も経ってから。それまでも関東とわたし達が住まう東北へ1年に何回か往復していたし、会っていても特に(おかしい)と思ったり感じる事はなかった。また皮肉な事に当時母は“介護ヘルパー”の資格を取得して働き始めた所だった。
その仕事をして数ヶ月経った頃だったろうか、わたしの携帯へ母が涙声で電話を寄越した。
「今、自分がどこにいるのか分からない…」
と。
母は訪問ヘルパーをしていたので事務所からその日の担当の方の所へ向かう途中、道が分からなくなったという。
わたしは心の底から驚き、聞いたことがない母の涙声と不安な様子に精一杯落ち着いたように対応するしかできなかった。すぐさま母の元へ駆けつけようにもできない。
「お母さん、事務所に電話できる?それかそこに戻れる?」
そんな風な事を言ったように思う。すると母は少し元気になったのか
「分かった」
と言って電話を切った。
その日の夜、確か母に連絡したと思う。
母は帰宅していたと思う。その事を弟とも話したっけ?大事な事にはならなかった。
それと同時期だったかな。
母が母の姉の所へ行く事をきれいさっぱり忘れてしまい、いとこからわたしに「おばちゃん(母の事)、ちょっとおかしいかも?」と電話があった事もあったなぁ。
でも、当時、わたしが電話で母と話しても特におかしいなんて思わなかったんだよね。顔を見ないで会話していると初期の段階では本当に分かりにくいのがアルツハイマーの特徴なのかもしれない。