母が去った時
母が連れ去られたと分かったのは、母と別れたその日のうちに母から
「東京へ向かってる」
と電話があったような気がする。
時間は夕方頃。
わたしは始め何のことかよく分からなかった。
今思えばO氏が最初から母を連れ戻す(と言っても母が生活していた弟と一緒のマンションではない)つもりだったんだな、と思う。
混乱したまま、母の携帯電話へ何度も電話をかけた。
その時はすでに電車に乗って移動していると言い
「今、話せない」
を繰り返す母。
しつこく掛けるわたし。
そんなやり取りをしていたら、母とO氏は途中下車したようでやっとまともに会話ができた。
しつこく電話をするわたしに母は語気を強めて
「何なの?」
と怒っていた。
しかし、わたしの怒りはそれ以上だった。
母とO氏と少し会話をしたけれど、まともなやり取りになるはずもなくわたしは電話を切ると泣いた。
「お母さんが連れていかれた」
その日の事はもうこれ以上覚えていない。
どんなやり取りをしたのか。
どんな会話で電話を切ったのか。
思い出せない。
約束を破られ、母に裏切られ、O氏に騙されたという気持ち。
でも、認知症の母と別れる事は、その介護から解放されるかもしれない、という期待みたいなもの。
そんな気持ちがぐるぐる回っていたように思う。